お侍様 小劇場
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   “カボチャのランタン” 〜寵猫抄より


カボチャは本来は夏の野菜で。
ただ、冬瓜と同じで長く保つため。
日本でも“冬至に食べれば風邪を引かない”なんて言われているし。
青物が収穫できない冬場のビタミン摂取には欠かせない、
貴重な緑黄色野菜でもあって。

 「ただし、それを使ってランタンを作るのは、
  別の風習との習合というやつなのだがの。」
 「確か、大元はカブで作ってたんでしたっけ?」

ああ、悪魔さえ騙した嘘つきジャックが、
天命を全うしたあと、天国にも地獄にも行けなくなって。
その手に提げて、
永遠の闇の中をさまよってたランタンって意味だとか、と。
さすがは作家せんせえで、
詳しいところをご披露して下さった……その手元では、

 「にゃあみゅっ、みぃ。」
 「ああ。ダメダメ、久蔵。手元に来ては危ないってば。」

リビングの窓辺に新聞紙を重ねて広げ、
オレンジ色が鮮やかな、それは大ぶりなカボチャを据えると。
まずはとヘタの部分を水平に切って蓋を開け、
中身のワタを、大きめのスプーンで、
ぐりぐりと掻き出そうとしていたところ。
白い手は器用で、繊細なことも得意だが、
実は武道も嗜んでいるせいか、
力仕事も結構頼もしくこなせて。
金の髪をうなじに束ね、キッチン用のエプロンを装備し、
それにしては工作用のノミやら糸ノコを手元にそろえ、
七郎次が取り掛かったのが、

 「ハロウィンのランタン、か。」

来月10月の末日の祭事。
以前は さほどいちいち浚う方じゃあなかったのが、
小さな家族が増えたせいだろか、
お祭りごとへのチェックが細かくなった秘書殿は。
まつわる料理を作る程度じゃあおさまらず、
こういったデコレーションにも凝るようになった。
そんな切っ掛けの張本人、
小さな坊やが真っ赤なお眸々を輝かせ、
興味津々でございますと、
見るからに判る様子で近寄りたがるのを。
大きな手で何とか捕まえているのが、
今日はその身が空いていた勘兵衛せんせえだったりし。

 「にゃ、みゅあっ。」

日頃は一番お好きな遊び相手のはずが、
今日ばかりは論外なのか、
時に幼い爪を立て、
やぁのやぁの、あっち行くのと もがいては。
七郎次が軍手した手で押さえ付け、
ガスゴス手早く処理している、
大カボチャばかりを見やっておいで。

 「ああ、これ。」
 「みゃあう〜。」

相手は小さな仔猫ゆえ、そうそう力も入れられず、
とはいえ、刃物を扱う手元へ飛び出しちゃあ双方が危ない。
全身でうにうにと暴れられては、
これこれと、その大きい手で何とか制していたものの。

 「ああもう、行ってはならぬと。」

洒落じゃあないが小さな胴をわっしと鷲掴みにし、
余裕で床へと縫い止めたりもするのを見てしまっては、

 「勘兵衛様、そりゃああんまりじゃあ。」

母親(?)としちゃあ さすがに忍びない光景に見えたか、
七郎次が細工の手を止め、訴えるような声を出したけれど、

 「隙間だらけだぞ? 苦しくはないはずだ。…っと。」
 「みゅう〜〜。」

言ってるそばから仔猫さんが復活。
仰向けになっての、
勘兵衛の手をまんま腹掛けのように乗っけた格好で、
じたばたと、ますますのお元気さでもがき始めるくらいだから、
成程、ちいとも堪えてはないらしい。
そのままで勘兵衛がやわらかく指を動かすと、
脇腹や顎の下をくすぐる格好になったようで、

 「みゃあにゃっ、みゃみゃっvv」

手足を縮め、身をよじっての“やぁのやぁの”の方向性が、
変わったらしい仔猫さんなのは明らかで。

 「……何やってますか、勘兵衛様。」

まったくである。
(苦笑)



      ◇◇◇


そんな騒ぎの末に完成したカボチャのランタンは、
そういや昨年はまだ乾いてないうちに
久蔵が中へと入ってカボチャまみれになったんだっけ。
どこかひょうきんな笑顔のランタン、
去年と同じく、テラスの隅っこへと置いて乾かすことにして。
遊びたいのと懲りない仔猫さんには、
そのカボチャを練り込んだ、
甘い蒸しパンのおやつをどうぞと進呈。
いい匂いに惹かれ、
ぱかりと大きく開いたお口へ運んでやれば、
うまうまvvと満足そうに堪能しているところなぞ、
何とも罪のないことよ。

 「カンナ村のキュウゾウくんにも見せたいね。」
 「みゃっ♪」
 「そういえば、昨年は この時期には来なんだのか?」
 「えっと、わたしがアレを作った時期と、
  キュウゾウくんが稲刈りで忙しかった時期とが、
  丁度 重なってしまったらしいのですよ。」

その上、やっぱり ああいう風に置いてたランタンは、
雨に打たれたか虫が食ったか、はやばやと崩れてしまって、と。
ご披露出来なんだのが残念だったと、眉を下げる七郎次だったが、

 《 それって確か…。》

晩になってロウソク灯したカボチャの影の、
おどろおどろしさが気になったらしい誰か様。

 『〜〜〜〜〜?』

傍らに屈み込んで散々につついたその挙句、
置いて3晩目に壊してしまったもんだから。

 《 そういう運びになったようにって暗示を、
   あの二人へと かけたんじゃあなかったか?》

だから、キュウゾウくんが来た折にはもう無かった、というのが、
正しい“話の順番”なのじゃあなかったかと。
猫の姿ではなかなか大変な苦笑を噛み潰した黒猫さん、
せめてものカモフラージュにと、
頭上を見上げたその先には、
秋の青空があっけらかんと広がっていた。




   〜Fine〜  2010.09.27.


  *ハロウィンも定着して来たからでしょか、
   催しとか関連商品とかの宣伝が、
   どんどんと前倒しになって来てませんか?
   10月末日ですよ、当日って。
   クリスマスだって、
   12月に入ってから取り沙汰するはずが、
   とっくに話題になってるほどですしね。
   ……と、思いつつ、
   こういうお話を書いてる辺り。
(笑)

  *そうそう、
   某わんぴのお部屋のお兄ちゃんとも、
   お付き合いは続いているようで。

   「だって勘兵衛様、るふぃくんたら、
    久蔵がサンマのお腹が苦手だってことまで通じてるんですよ?」
   「…省略されすぎで何が何やら判らんのだが。」

    詳細は こちら。 
ワンピース 天上の海

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